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舌長60センチ?ナックルウォーク?知ればやみつきになる、あの南米産珍獣の魅力を徹底解剖! [動物]

以前、よこはま動物園ズーラシアに行ったときのこと。
入り口からほど近い柵の前で、大人や子供が「アリクイだ」「アリクイかわいいね」と口々に言っていた。
覗いてみると、小雨の振る中、柵の中にマレーバクがぽつんと立っていた。マレーバクに代わって「違うよ!」と言ってあげたかった。

日本に暮らしていて、アリクイを知らないという人は恐らくごく少数だろう。
しかし、アリクイの特徴をどこまで詳しく述べられるだろうか。そもそもアリクイの姿かたちを正しく思い描くことができるだろうか?

アリクイなんかに興味はない、という人も多いだろう。
確かに、アリクイには、レッサーパンダのような派手なアピールはない。カピバラのような癒しオーラも出ていない。一般に、全体に灰色でなんだかもっさりした外観と、「アリを食う」というキワモノ的特徴だけが浸透している。

しかし、実際のアリクイは、ナックルウォークで黙々と歩き回り、ドッグフードを食べ、80歳の高齢(人間年齢換算)で出産し、寒さでおなかをこわし、展示室から脱走してペンギンと仲良くなったりしている。一見地味だけど、よく知るとなかなかに個性的で面白い動物なのだ。一部で熱狂的な愛好家がいるというのも頷ける。

動物園で檻の前を素通りするにはもったいない、知られざるアリクイの萌えポイントを、G-Searchの新聞・雑誌記事横断検索を使って紹介していきたい。

●アリクイことはじめ

まずは基礎知識から。
哺乳綱、貧歯目、アリクイ科。ナマケモノの親類筋らしい。
歯がまったくなく、粘り気のある長い舌でシロアリや昆虫の幼虫などを絡め取って食べる。

蟻塚を壊すために前脚のカギ爪が発達しており、天敵に襲われた際の武器にもなる。大事な爪を保護するためか、前脚の先を内側に丸め、手の甲を地面に突いて歩く。
身に危険が及ぶと立ち上がって威嚇する。

中南米に広く分布し、沼沢地、密林、サバンナ、草原などに生息。蟻塚を求めて一日のうちにかなりの距離を歩き回ることもある。小型のヒメアリクイなど、樹上性のものもいる。

昼夜の寒暖差が大きいため、夜はふさふさのしっぽを布団代わりにして寝るそうだ。

●平均寿命は15年、オス同士のお見合いも?

「アリクイ」という言葉は特定性が高いので、素直にキーワード欄に「アリクイ」と入力して検索してみる。すると、ざっと380件ほどの記事がヒットした。ノイズがほとんどないのがありがたい。
それによると、ネットで調べるよりもいろいろなことが分かってきた。

まず、人工飼育がとても難しいということ。最近では国内の数箇所で繁殖に成功しているが、90年代には生後間もないオオアリクイの赤ちゃんが出産時の事故などで死亡している。

また、アリクイは外見的特長で性別を判断するのが難しく、鋭いツメのために採血検査も難しいことから、静岡市立日本平動物園と静岡大農学部のグループが、 1994年に体毛を使ったDNA鑑定を行った。すると、7箇所中2箇所の動物園で、オス同士をつがいとして飼っていたことが判明。
「いつまでたってもこどもが生まれず、おかしいと思っていた」と、沖縄こども動物園から静岡へ1頭を移している。
正しく性別が判定できるようになったのは、ほんの十数年内のことなのだ。

1997年には、静岡県の日本平動物園でオオアリクイの赤ちゃんが誕生、「エスペランサ」と名付けられ、元気に育っているという記事がある。
またこの頃に神戸市や沖縄県の動物園で、オオアリクイのお見合いが行われ、沖縄では翌1999年に待望の赤ちゃんが生まれている。
また、2005年には、池袋のサンシャイン国際水族館でミナミコアリクイの繁殖に成功している。

オオアリクイの平均寿命は飼育下で15歳だが、14歳(人間では60歳程度)で父親になった例や、20歳(同じく80歳程度)を超えて出産した例もある。繁殖力が低いというわけでもなさそうだ。飼育下の環境をいかに整えるかというのがポイントのようだ。

ちなみに、アリクイの赤ちゃんはかなり大きくなるまで母親の背中に乗って移動する。母親は、ときどき手であやすようなしぐさもするという。
母親の背中に必死にしがみついている姿は、思わず目じりが下がるほどかわいい。

●好物はドッグフードにヨーグルト?

アリを食べるからアリクイ(Anteater)と名付けられたのであって、野生のアリクイは、無論アリを食べている。強固な蟻塚を壊すための鋭いカギ爪も、そのカギ爪を守るためのナックルウォークも、そのためのものだ。

動物園では、毎日大量のアリを用意するのは大変だろうと思いきや、ほとんどの動物園では、アリの代わりに肉や卵などを与えている。歯がまったくないので、それらをミンチやペースト状にして与えているという。
レシピは以下のとおり。

  ・馬肉のミンチ・ゆで卵の黄身・ドッグフードなどをぬるま湯で混ぜる(沖縄こどもの国/沖縄県)
  ・ペレット(人工飼料)に牛レバー、卵黄、カルシウムの粉末などをミキサーにかけたものに、鶏ミンチ肉を混ぜる(王子動物園/兵庫県)
  ・アボカドやレバーペーストなどもエサとして与えている(サンシャイン国際水族館/東京都)
  ・鶏肉や牛レバー、卵の黄身、ヨーグルトなどを粉ミルクと混ぜたもの(上野動物園/東京都)

アリの酸味に近づけるため、ヨーグルトを用いることが多いらしい。また、アリのプチプチした食感を牛レバーとミンチで再現するなど、工夫が凝らされている。

●どこでアリクイ会える?

だいぶアリクイのことが分かってきたところで、実際にアリクイに会いに行ってみたくなったら、最寄のアリクイを飼育している動物園を訪ねてみよう。

関東近辺では、オオアリクイは、上野動物園(東京都)やよこはま動物園ズーラシア(神奈川県)などで飼育されている。また、サンシャイン国際水族館(東京都)では小型のミナミコアリクイを見ることができる。

日本平動物園(静岡県)は、日本動物園水族館協会からレッサーパンダとオオアリクイの「種別調整者」に指定され、国内の個体情報の集約や交配管理を行っている。およそ25年前にオオアリクイの飼育を開始して以来、世界に誇る繁殖実績を上げている。現在は、ジョッキー(オス)、ムチャチャ(メス)、チチカカ(オス)の3頭が暮らしている。動物紹介のオオアリクイの項目を見ると、3頭がのびのびと暮らしている様子が伺える。アリクイファンにとってまさに聖地とも言える。

●アリクイの写真を撮るコツ

実物を見て、それが動いている姿を目の当たりにしたら、次は写真を撮りたくなるかもしれない。なるだろう。

動物園のアリクイは、常に歩き回っていることが多い。その速度が予想を上回るため、だいたい1枚目は使い古しのモップを大写しにしたようなショットになる。何枚か撮って、アリクイのスピードに慣れよう。

できれば十分に明るい場所で、シャッタースピードを速めに設定して撮りたい。または「スポーツモード」などを使用し、更にアリクイの進行方向を予測して前方から待ち伏せて連写しよう。
給餌時間を狙っていくと、止まってエサを食べる姿をゆっくりと撮ることができる。

●ミナミコアリクイ脱走事件

最後に、2005年6月に池袋サンシャイン国際水族館で起きた、ミナミコアリクイ脱走事件の顛末を、当時の新聞記事からまとめてみる。

第一報は、6月1日の共同通信の配信記事で、「アリクイ逃げ出し大捜索 池袋・サンシャイン水族館」とある。
水族館の一角にある、小動物の放し飼いコーナーで飼育されていた、ミナミコアリクイの「タエ」(メス 2歳)が、飼育係の目を盗んで脱走した。出入り口の引き戸にカギがかかっておらず、自分で戸を開けて逃げ出したとある。
体長約50センチ、体重4キロと、小ぶりの中型犬ほどの大きさであることから、人に危害を加える可能性は低いとして通常通り営業を続けたという。また、巣鴨署に遺失物届けを出している。
スタッフ70人で捜索したが、その日は発見できず、翌2日午前八時半ごろ、約二メートル離れたペンギンビーチで約六十羽のペンギンに交じって人工岩の上にいるところを発見、無事保護された。

この事件は、全国紙でも相次いで報道され、インターネット上でも話題になった。水族館にアリクイが展示されているということ、自力で戸を開けて逃げ出したという点、更に公開されたタエの写真の可愛らしさなどが話題を呼び、アリクイが注目されるきっかけとなった。

おそらく、毎日スタッフが出入りするのを見て、開け方を覚えたのではないだろうか。意外と賢い動物だということが分かる。そして、翌朝発見されるまでどこに隠れていたのか、ペンギンとの折り合いはどうだったのかなど、解明されていない謎は残っている。やはり、ペンギンにかくまわれていたと見るのが妥当なのだろうか。

「お嬢ちゃん、どこから来たの?」
「パラグアイから…」
「そんなとこにいると見つかるからこっちに来なさい」
「何ならずっとここにいてもいいんだよ」

などという会話が交わされていたのではないか。
そのタエも、その年末に息子の「リク」を出産、再び話題を振りまいた。今も親子で元気に暮らしているが、その後脱走はしていないらしい。

ミナミコアリクイ等がいる「Zoo-Zoo ハウス」は、ペンギンビーチの真向かいにある。ペンギンたちはタエ親子を見守っているのではないか。
そんな想像を誘うほどに、この脱走事件はアリクイへの認識を変えてくれた。脱走した当人の気持ちは知るよしもないが、地味でおとなしそうな顔をしていてもなかなかやってくれるものだと、何か溜飲を下げてくれた事件でもあった。

そのタエの3番目の子どもが、2008年3月下旬、上野動物園で公開予定だ。
脱走はしないまでも、また新たなアリクイの魅力を見せてくれるのではと、期待している。

動物園には久しく行っていないという人も、風が暖かくなったら、カメラを持って動物園に行ってみよう。そして、ひとつひとつの動物の表情や動きをファインダー越しに観察してみよう。今まで気付かなかった魅力に出会えるかもしれない。

(text by さ)

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2008-02-20 10:48  nice!(0)  トラックバック(0) 
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